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指導で何を見ているか

パーソナルトレーニングでトレーニングを見てもらうって、一体何をどうするのだろう。

筋トレ動画ならYouTubeやインスタでいくらでも見れるし。

そもそもフォームとかってそんなに大切なの??


フィットネスにまつわる情報が多い現代、そんな声もあったりなかったり。。


今日は自分がフォーム修正の指導をどのように行っているのか、

普段その術を解説することはないですが、明かしても真似はできないのでこの機会に文章に起こしてみたいと思います。


既に長くなりそうな予感がひしひし。。



〜本題〜

例えばこのケーブルマシンを使用したプレスダウンのケース。ロープではなくリボルビングカールバーやプレスダウン用アタッチメントのバーを使用するパターンです。


指導の技術レベルは初期をLv.1、完璧をLv.5としましょう。

-Lv.1-

まず私が動作を行って大まかな手本を見せますが、その場合たいていはこのように表現します


「少し前屈みになって肘を動かさないようにしましょう。」


この言葉は本意と異なるのですが、現時点では仕方ありません。

まずは誰しもが理解及び実行できる範囲での表現となります。


実際に行ってもらうとほとんどの場合肘が必要以上に動きます。


それに対しこう伝えます


「少し脇を締めましょう。」


これも本意とは異なりますが、現時点ではやむを得ずこの言葉を使います。


なぜ肘を動かさないようしたいかは、主動筋である三頭の停止(厳密には肘というか尺骨)を”ある程度”固定したいからです。

この”ある程度”が後ほどまたややこしくなるのですが、Lv.1でそのようなことは全く気にする必要はありません。

気にしない理由として、この時点での扱う重量が軽いこと、そして上腕三頭筋を使う感覚を掴むことが優先なので、今はとにかく肘を固定すれば良いです。


また、上記の「脇を締めましょう」がなぜ本意でないか。

それはほとんどの方にその言葉を使うと『脇』だけでなく『肘』を締めます。

肘を締めるとはどんな状態でしょう?

起こるのは上腕の外旋です。その際に使われる筋肉は小円筋や棘下筋です。この時点で理想のフォームとは外れてしまいます。生真面目な方だと僧帽や菱形の収縮まで達します。

むしろ逆です、でもいいんです、あくまで現時点では。肘を固定さえできればOK👌です。


ただ、脇を締めるという表現にも良いところはあり、それにより三頭の長頭を緊張させることが可能です。

しかしこれは内転についてなのでまた話が変わってきます。


ちなみにLv.1の時点でも二の腕(三頭)を使う感覚は十分に感じられ、実施する量に依存しますが結構な筋肉痛を起こすことも可能です。


一般的に筋トレしている人の多くはLv.1の動作を続けていると思ってよいでしょう。


なおLv.1での手首に関しては「しっかり握って、返りすぎなければよい。」

立ち方に関しては「左右にぶれないように、少しお尻(股関節)を引いて。」くらいにとどめます。


実際には手首のコントロールはできず、立ち方も股関節でなく膝(四頭)立ちとなります。

左右差はかなり大きく、重心の乱れも気になりますが、これも現時点では仕方ないので、あまりしつこく指摘はしません。

指摘の箇所が多くなるほど、現時点で最優先すべきであるポイントへの意識が抜けてしまうためです。


肘固定が上手くできない理由は下記5パターンです。

ほとんどの場合①〜⑤全てが同時に起こります。


①辛い、痛い、苦しい、早く終わらせたい、という理由から負荷を前方に逃してしまう。(これは傾向として男性に多く、女性では少ないパターン。やはり女性は痛みに強いのでしょうか。もちろん相対的な使用重量が軽いことも起因。)

②動作に集中できていない。身体の一部を固定するという概念や経験がない。発想や心理的な問題。

③内転また内旋不足により肩関節が不安定で、意図的でない屈曲が起こる。

④肩甲骨また胸郭や上体そのものが引き上げられ、プルオーバーや腹筋運動の動作が混ざってしまう。

⑤立ち方、位置による重心が不安定でウエイトや自分の動作に翻弄されてしまう。


原因を見抜いたらその対策をします。

ただしその方のトレーニングに対するモチベーションまた動作センスによっては、特に対策をしない場合もあります。

多少間違っていたとしても、『運動を継続をすること』こそが最も大切だからです。

何度も繰り返される細かすぎる指摘はクライアントの運動へのモチベーションを奪います。

ただし、危険なミスは放置しません。必ず直します。


ある程度肘固定をクリアしたら-Lv.2-に入りましょう。

ちなみにLv.1と2にはかなり高い壁があります。


内転及び内旋には体幹部の大きな筋肉を使用したいところですが、初期段階でそれは不可能です。

腕と体幹部を連動して使用するという概念や感覚がないためです。仮に細かく説明と指導をして頭で理解したとしても、神経が発達していないため実際にその動作は出来ません。


この時点では動作の支点が”悪い意味”で肩関節になります。

意図的に肩関節を利用し長頭に伸張をかけることとは異なりますので注意が必要です。(③のケース)


なお過度な肥満により腕や脇付近の体脂肪が多いと、そもそも内転がしきれない、また不要に内旋しすぎるパターンもあります。その改善には痩せる以外に方法はありません。


また、一見適度な内旋ができているように見えて、その実、俗に言う巻き肩(肩甲下の硬化など)による内旋の場合があります。これを混同してはいけません。


傾向として、トレーニングに慣れていない方は、弱く小さな補助用の筋肉で肘の固定を試みることが多く、

それが鳥口腕筋や三頭長頭での内転や、先に挙げた小円、棘下での外旋として現れます。

このままのフォームで続けている(加重していく)と肘と手首に無理な負担がかかり、痛める可能性も高くなります。

そもそも負荷の掛かりや筋力発揮の効率が悪く、筋力の向上が思うように進みません。すぐに使用重量の頭打ちとなります。


この種目で使用したい体幹部の大きな筋肉とは前鋸筋、大胸筋、広背筋、腹筋群です。

補助を含めるとさらに多く、下半身も重要ですが今回は触れません。


「上腕のトレーニングなのに大胸筋に広背筋?それじゃ腕に効かないのでは?」


こう考えてしまうのも無理はありません。

しかし、むしろ腕に効かすために上記の大きく強い筋肉達に”協力”してもらいます。

この”協力”というのが大切で、決して”可動”ではありません。ここを間違えるとLv.1からやり直しです。

(敢えて可動させるパターンもありますが、ややこしくなるため無視します。)


ここが鬼門となります。

逆に言えば、クリアすることができるとトレーニングの効率が大きく向上します。


まず前鋸筋に関しては最初からその存在を意識できる人はいません。

それは長年の筋肉の硬化や肥満による姿勢の乱れ、喫煙等による胸郭の可動不足、胸椎の伸展不足。それにより拮抗筋の菱形筋が機能していないことなどが関係します。これらの改善には大変時間がかかります。


大胸筋は比較的簡単です。ベンチプレス等をある程度行えるようになると大胸筋はすぐにコントロールできるようになります。

その理由として、多くの人はベンチプレスが好きで、マッチョの代名詞である大胸筋を発達させたいという意識が高く、そして筋肉そのものが目立つ場所の体の前面であることから、触れたり実際の動きを目で見ながら動作することが可能だからです。また大胸筋の作用が単純(特に中部下部)で負荷を掛けるのが容易というのも大きな要因です。


広背筋は少し難易度が上がります。

肩甲骨の下制(作用には記載されないことが多いが、事実上必須)が必要となることがその理由の一つ。

これまた生活習慣による長年の背中や肩の凝り、肥満による姿勢の乱れがそれを阻害します。


前鋸筋は肩甲骨外転と前傾に利用します。

なぜ三頭の種目なのに外転や前傾が出てくるのか。それは高重量のプレスダウンの際、動作の特性と負荷の方向から外転での押さえ込みが必要なのが理由の一つ。(ディップベルト等で荷重して不要にする方法も一応あるが、それは別種目。)もう一つは起始である肩甲骨を固定し長頭に伸張をかけるため。

なお肩甲骨外転と胸椎の屈曲は感覚的に似ているため注意が必要です。


腹筋群の操作は難しくありませんが、腹筋運動は手を抜く方や苦手意識を持つ方が多く、筋力不足になりがちなのでサボらずに行いましょう。毎日何十回もやりましょうという意味ではありません。ここでも大切なのは動作フォームです。


これらの協同を利用し、動作と肘のポジションを安定させます。


様子を見て実行できそうであれば上記を順を追って指導しますが、前述した優先順位を考え指摘しない場合が多くなります。

それでも他のトレーニングとの組み合わせにより、時間の経過とともに自然と出来てくることもあります。

効率よく、より強い筋力を発揮することを、運動の繰り返しにより感覚で自然に身につけることができたパターン。

俗にいう才能のある人はこれを誰に教わるわけでもなく最初からできてしまいます。(羨ましい)


また、Lv.2では手首の使い方、股関節での立ち方、下半身の固定と重心の安定、正しい呼吸による強い筋力の発揮と腹圧の安定も必要です。


これらも全身のトレーニングやストレッチその他エクササイズを継続し少しずつ身につけていきますが、

それらの指導についてここでは触れません。書き終えるのに何日掛かるかわかりません。。


もし上記のその他含む全てがクリアできればLv.3に到達します。


-Lv.3-は単純です。

Lv.2までに行ったことを、最後の1レップまで崩さずに行うこと。


正しいフォームは、軽めの重量や疲労のない段階では比較的容易に守ることができます。


高負荷を扱い筋肉に強い刺激を与え、痛みを感じ、呼吸は苦しく、血圧は上昇している。

それでもなお最後まで崩さずに動作を保つ。この難易度は非常に高くなります。


コツは「気合と落ち着き」です。


たまにSNS等でアンモニアを嗅いで、後ろから背中を叩かれ、叫びながらトレーニングしているような映像を見かけると思いますが、それは上記のコツのうち気合いのみに特化し、落ち着きを取り払ってしまっています。


そういった発想では正しい動作のコントロールができず、若さと力みに頼ったトレーニングになります。

まず怪我のリスクが高くなり、長期的な成長は見込めなくなります。

生まれつき特別な素質があり、頑丈な身体を持った人に限定すれば短期間は耐えられるでしょうが。


気合と落ち着きという一見相反する感覚を同時に操ることがLv.3のテーマとなります。

もちろん筋肉のコントロールには十分な炭水化物をはじめとした適切な栄養摂取も必須です。


-Lv.4-へやってきました

ここでは少しバリエーションをつけます。

だいぶ前の方に記載した、肘を”ある程度”固定するという部分がポイントとなります。


敢えて肘のポジションをある程度自由にすることで長頭の伸展や広背筋らの補助、また自重とウエイトスタックの重さ、マシンによってはケーブルや滑車の特性を利用し、肩甲骨の遊びを利用した反射反動を使います。

Lv.2で身につけた体の使い方と、Lv.3での苦しくなってからも崩さない制御力が必要になります。


それが制御できないと、一般のジムなどでよく見かける重いものをガチャガチャ振り回している迷惑な筋肉おじさんになります。

ここまでの苦労が水の泡です。Lv.1に戻りましょう。


-Lv.5-は仕上げです。

トップからボトムにかけ負荷を無駄なくきっちりと受け切ります。

そのためには頸反射とも呼ばれる微妙な動きの追加と負荷に合わせた重心の移動が必要となります。


難しいため、少しずつ慣れていきましょう。

これまでの動作に加え、ボトムでは重心を落とし前傾をやや強く、トップではその反対にします。

ごくわずかに胸椎、股関節、膝、肩(上腕)を伸展させます。

もちろん動作とのタイミングが合わないと、ただ負荷が逃げるだけで逆効果になります。


これにより、プレスダウンという種目の『ケーブルの負荷は直線方向であり続けるのに、単関節種目(基本的には)のため動作は弧を描いている』という矛盾点を封じ込めます。他にもそれを抑える方法はありますが、この方法がベストだと考えます。


これをLv.4までと組み合わせることで

『高重量を、関節に負担なく安全に、高強度で追い込む。』ことが可能になります。


繰り返しですが、ここまで書いてあるのはほぼ「肘の位置と動作」についての説明です。


また、一口にプレスダウンといっても他にも様々なバリエーションがあります。

ここに記載した方法が正しくその他は間違いという意味ではありません。

負荷を掛けるタイミングや三頭の各部位への狙いにより動作を選択します。


〜終わり〜



あとがき

指導中は何気なく頭の中で行うことですが、文章に起こすと1種目における1つの動作だけでも大変ややこしく感じます。表現の重複がありますが敢えて残しています。


なんだかトレーニングがとても難しいことのように思えてしまいそうですが、個々の身体やモチベーション、性格、動作のセンスに合わせ、その方の行える範囲またアレンジで柔軟に内容を選択することが大切です。



ねずみのジム

にし

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